Vol.2
ハイキング・イン
・グランドキャニオン

『South Kaibab Trail
 and Bright Angel Trail』

(サウス・カイバブ・トレイルと
 ブライト・エンジェル・トレイル)
  

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“雄大”、という言葉がこれほど見事にマッチするところがあるだろうか。スタートポイントからいきなり、山頂に立ったような錯覚に陥る壮大な景色。頭上に広がる真っ青な空も“その演出”に一役買っているかもしれない。眼下には、赤色、茶色、緑色した縞模様の地層がむき出しになった大壁面が幾重にも重なり、ずっとずっとずーっと遠く向こうまで続いている。“地の果て”とはこんなものだろうか?深い峡谷の底にとうとうと流れる Colorado River(コロラドリバー)の姿はまだ見えない。
コロラドリバーの大峡谷グランドキャニオン。その巨大さは数字を見ても想像がつかないだろう。長さ443.2km、幅28.8km、深さ約1.6km。とにかく“ビッグ”だ。さて、自称ハイカーの私は驚いてばかりもいられない。この大峡谷を自分の足で歩き、その偉大さにちょっとでも直に触れてみたい。
  
雄大な Grand Canyon

2つのお約束。 グランドキャニオンでは、普通のハイキングの注意点以外にも気をつけないといけないことがいくつかある。ひとつは歩行力の分配を考えること。通常、山でのハイキングは、最初に登りがあり、ピークがあり、そして下っていくというのが一応のパターン。しかしはここその逆。体力が十分あり余っているスタート時からいきなり“らっくらくー”の下りが続いたまま、目的地の谷底、コロラドリバーに到着してしまう。そこでランチ休憩などをとって一休み。油断すると心も体もくつろぎきってしまう。そして、「さあ戻るか!」という時になって急勾配の登りがいきなりやってくるのだ。
このナショナルパークを管理しているレンジャーは、口をすっぱくして言う。「一日で谷底まで下り、その日のうちに戻るなんてバカなまねはしないでくれ」。毎年多数のハイカーが、帰りの登りのトレイル上で体力が尽き、彼らレンジャー達に“SOS”の助けをもとめているという。ちなみにお利巧なハイカーはコロラドリバーでキャンプをし、一晩を過ごす。満天の星空とコヨーテの遠吠え、しんと静まり返ったグランドキャニオン。願わくばそんな夜も体験してみたい。但しそのキャンプ場の予約はかなり前から必要だそうだ。
  
谷底を流れる Colorado River

水、水、水。 命の水。これを忘れるようではグランドキャニオンを歩く資格などなーい!、と言ってしまいたくなるほど大切なものである。ここは正真正銘の砂漠。とにかくのどが渇く。日陰もないので特に夏場は熱射病で倒れる人も多い(夏場の最高気温は40℃、最低気温は24℃)。また峡谷に囲まれているこのトレイルは熱が下の方にたまっているため、谷底に向かって下るにつれ気温が上昇していく。峡谷の上と下ではかなりの気温差がある(私の場合、スタート時は冬の装いだったが、谷底に着いたときにはTシャツと短パン姿だった)体温を急激に上げないためにも水は必要不可欠。一人につき1ガロン(約3.8L)は持っていこう、というのがレンジャーのお言葉。
普段のハイキングに持っていく水の倍以上は驚くほど軽く飲んでしまう。ハイキングの途中で水補給しようという考えは捨てたほうが良い。ほとんどその機会はない。私たちの場合、十分な水を持っていったつもりだったし、谷底のブライト・エンジェル・キャンプグラウンドで補給もした。が、帰る途中、まだゴールまでの道のりがかなりあるというのに水が切れ、さらに疲労を感じた。
  
下れば下るほど気温が上昇していく

 

Grand Canyon National Park (グランドキャニオン・ナショナルパーク)の South Rim(サウス・リム)には5つのトレイルがある。代表的なのが Bright Angel Trail(ブライト・エンジェル・トレイル)と South Kaibab Trail(サウス・カイバブ・トレイル)。どちらのトレイルを通っても、谷底のコロラドリバーに迷うことなくたどり着ける。
ブライト・エンジェル・トレイルは比較的イージーで人気が高い。ラウンドトリップで29.8km、なだらかな下り登りの高差は1359m。サウス・カイバブ・トレイルは長さでいえば短いが、さらに急勾配。ラウンドトリップで20.6km、そのうち半分近くの距離10.08kmで一気に1433mを下る/登らなければならない。
  
South Kaibab Trailはここからスタート

 

時は10月中旬の朝10時 (ちょっと遅刻)、グランドキャニオンは寒い。何度もいうがここは砂漠。朝は寒いが気温は時間とともに、どんどん上昇していく。体温調節のため衣服はレイヤード仕様。「せっかくここまで来たのだから…」的根性の私は、ブライト・エンジェル・トレイルとサウス・カイバブ・トレイルの両方を一日でいっぺんに歩くことにした(脚力に自信がなければ絶対おすすめしません)。行きの谷底までのトレイルは、急勾配だけどゴージャスな景色が楽しめるサウス・カイバブを下った。途中でミュール・ライダーズに出会う。この大自然のグランドキャニオンとコロラドリバーまでの道のりを楽しんでみたい、でも過酷なハイキングはノーサンキューという方々だ。この時気づいたのだが、このトレイルがやけに臭いのはミュール・ライダーズがまたがっているミュール君(?)たちのフンのせいだ。  
ミュール・ライダーズ

 

下っても下っても 目に入るのは峡谷の荒々しい姿だけ。青々とした緑もないので、なんだか物足りなさを感じ、心身ともに枯渇してくる気がする。そう思っていると谷底のコロラドリバーが顔を出してきた。水はこの世のものとは思えないような翡翠のような色をしている。川の流れる音は気持ちをほっとさせる。午後3時頃にはコロラドリバー沿いに座り、サンドウィッチを食べた。トレイルヘッドの Yaki Point(ヤキ・ポイント)から約5時間、いいペースだ。帰り道はブライト・エンジェル・トレイルを戻る。ここまでずっと下りのトレイルを歩いてきたし、ランチ休憩などもとり体はすっかりなまってしまった。そんな体にムチ打って歩き出す。谷底からまたサウス・リムまで戻るのかと思うとさらに足が重くなる。何度となく目の前に現れる、野生のガリガリに痩せこけた“鹿ファミリー”を見ても、もう喜びも感動もなくなってくる。   
野生の鹿ファミリー

月明りの中でのハイキング。 なんともロマンチックなサウンドではないか。午後も2時を過ぎてから登りはじめ、思うにままならいペースの中で、グランドキャニオンに沈んでいく夕日を眺めた。午後6時過ぎ、夕日に照らされ様相をすっかり変えたその姿は、“美しい”の一言よりも、あまりの悠々しさにまわりのもが動きを止める。その威厳を誇るかのように、ゆっくりゆっくりと時間をかけて、夕日が沈んでいく。ふと気づくといつの間にか辺りが暗くなり、月が輝きだした。思わぬ誤算で、夜道を歩く羽目になる。“思わぬ誤算”なので、トレイルを照らす懐中電灯を持っていない。トレイルの上をみあげるとポツンポツンと懐中電灯の明かりがつきだす。私たちの後方にもそれが確認できた。文字通り、月明りだけをたよりに歩いた。ちょっと月明かりからそれると、もう真っ暗闇。“一寸先は闇”、ってこういうことから生まれた言葉なのかな、とつまらないことを考えながらひたすら歩く。   
South Kaibab Trail から Bright Angel Trail への橋

疲れがピーク を超えると、不思議なもので、ものすごい力があらたに涌いてくる。どんどんペースをあげ、前方のハイカーを追い抜く。真っ暗でお互い顔も見えないし、何人いるのかも分からないが、トレイルで出会った以上「ハロー」ぐらいは言いましょう。
何度か小休憩をとりたかったが、止まると寒さで体が硬くなるので我慢、我慢。「あそこまで行ったら、ちょっと休もう」、「これが終わったらあたたかいもの食べよう」、「明日は眠りたいだけ眠ろう」と、励ましあい(?)ながら歩いていると、目の前に女性のレンジャーが立っていた。「どこから歩いてきたの?」と彼女。「サウス・カイバブからコロラドリバー経由でここまで」と私。その5秒後、私たちは彼女が神としか思えないほど幸せな気分になった。真っ暗であたりの様子が見えなかったのだが、私たちはすでにゴールしていたのだ。午後8時過ぎ。長い、長い、デイハイクが終わった。
 
砂漠でも元気な植物


ビジターセンターで情報収集
  

カリフォルニアから来た Tim


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